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ふわふわ卵と“致死量”の油

北京で暮らしていたころ、どうしても納得のいくトマト卵炒めが作れませんでした。
シンプルだからこそ難しい——そんな料理に、中国語の先生が教えてくれた“秘密”とは?

材料も工程もシンプルなのに、どうして美味しくならないのかが不思議でしかたなかった。
塩だけで味付けするのが私の好み。でも何度作っても「なんか違う」。
シンプルすぎて、失敗の理由すら見えてこない。

そこで、中国語の先生に作り方を教えてもらうことにしました。
返ってきた答えは…「油をもっと入れて」。
言い方はごく普通だったけれど、実際に先生が入れた油の量は衝撃的。
フライパンに、ダーーーーーッと。目を疑うような量。
私は心の中で「致死量だ…」とつぶやきました。

それでも言われた通りに油を熱し、卵を炒めると——
あの中華料理屋さんで食べるような、ふわっふわの卵ができたんです。
たった一つの工程で、いつもの卵が別物になる瞬間。
そのあとトマトを加えて炒め、塩で整えて完成。
ようやく、自分でも「美味しい」と思えるトマト卵炒めができた気がしました。

でもその夜は、少し胸焼けがしました。
美味しさと驚きがセットになった夕飯。
日本人の私には「致死量」だった油も、先生にとっては“いつもの量”。

文化の違いを知って、戸惑うこともあったけれど、
受け入れてみると、新しい美味しさや楽しさが待っていました。

あの日のふわふわ卵は、言葉以上に、中国を教えてくれた気がします。

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